髭日記

アメブロからのお引越し。

スケールはこじんまりしてるけど良質な舞台を観たような良作なお話。

129【リバー、流れないでよ】(初)/WOWOWにて。'23年公開の舞台を主戦場にしてるヨーロッパ企画が制作した作品。久保ちゃん(乃木坂46の久保史緒里ちゃんの事です)の出演作品("友情出演"扱いですが)。原案・脚本は[時をかけるな、恋人たち]の上田誠。他にも[続・時をかける少女]('18・新内眞衣出演)、[夜は短し歩けよ乙女]('21 ・久保史緒里出演)、[たぶんこれ銀河鉄道の夜]('23・田村真佑出演)、[鴨川ホルモー、ワンスモア]('24・清宮レイ出演)など乃木坂ちゃんと縁のある舞台を作ったりしてる方なんですが、いかんせん舞台を観に行く感覚が乏しいのでなかなかご縁がなかった。SNSのTLで見かけたり予告を目にしたり作品自体は存じてました。久保ちゃん絡んでるし。劇場で予告を観た事もあると思う。

主演の藤谷理子さんはこれまた乃木坂46のメンバーが出演してた[あさひなぐ ]('17)でキュートな副住職の郁林(いくりん)役を演じて(知って観るとものすごく郁林ぽいです)、実は今作の舞台でありロケ地の老舗旅館〈貴船ふじや〉は彼女のご実家なんですと。宿泊客の1人・クスミ役でこれまた[時をかけるな、恋人たち]でタイムパトロール隊の隊長役を演じてた石田剛太さんが出てました。観た瞬間に既視感を感じてすぐに調べた。女将のキミ役の本上まなみさんと宿泊客の作家・オバタ役で近藤芳正さんくらいしか存じてなかったんですが(これはただぼくが情薄なだけです)プロップとシナリオが良かったのでおもしろかったです。予想してたよりおもしろかった。86分というコンパクトな時間もいいんですよ。クラファンに参加したサポーターの名前がエンドロールに出てましたね。「一緒に作ってる」じゃないけどこーゆー参加型の試みはいいなと思いました。

「2分をタイムリープする」

この設定を見て『2分で何ができる?』とたかを括ってあんま期待すらしてなかったです。実際最初の数回のリープではおもしろさが微妙に見つけられなかった。雑炊の2周目あたりから少しづつじわじわきましたね。とても良くできてる。〈5分〉ならできる事が増えちゃうしドタバタ感が薄れちゃう。〈10分〉なら当然長過ぎる。「あ〜もうちょっとなのに〜」っていうモヤモヤやおもしろさが〈2分〉でちょうどよく描かれてる。タイムリープ、タイムスリップの設定で過去一短いスパンじゃないですか?〈2分〉って。それでもちゃんと成立してるんですよね。〈2分〉を計測しながらのワンショット撮影なのも演出では出せないリアルさとでも言うのか現場感や没入感みたいなのを引き出すメソッドになってるように思いました。リープに慣れて開き直ってく流れや『初期位置』や『スタートここです』とか『このターンでは無理』のフレーズもコミカルでよかったですね。犠牲者(?)が出始めたあたりで少し不穏な空気にさせる匙加減も巧かったと思います。その辺も重くならずにユーモラスに描いていたのも脚本の上手さなんでしょうね。かと思えば「髪を切る」くだりでエモエモな気分にもさせてくれる。最後のループでみんなが協力し合う大円団の流れとかちょっと感動しちゃった。よくできた脚本ですこと。まぁオチの唐突さというか素っ頓狂な部分はそんなに気にならないです。〈コメディー〉の範囲内でしょう。〈スリラー〉や〈サスペンス〉でアレなら『?』ですけど。〈コメディー〉ですから。最初に謎解きをしようとして空振りしたあたりから『あれ?ヒサメ(久保史緒里ちゃん)は?』と頭に浮かび出しての大オチなので『ほほぉ』て感じでした。ただ、久保ちゃんが助けを求める時に『凍結してて』って言うワードが雪のないタイミングなので今思うと違和感あるけどそれも〈大雪〉を匂わせる伏線だったのかしら。

お金のかかった壮大なセット(旅館のロケなんでそりゃそうですわ)で質の良い演劇を観てるかのような感覚。演者さんの芝居や台詞にも若干演劇の舞台感はありましたしね。作戦会議の時に呼んでないみんなが集まるトコとか、解除しようとする時にみんなが川縁に集まるトコとか舞台感満載でしたし。でもそれはマイナスポイントではないです。最近の映画での〈(字幕が要るような)ボソボソ喋る話し方がリアル〉的な流れに対して(まぁプロップ次第ですけど)とてもわかりやすくて明確でしたもん。まぁ舞台風味がちょい濃いのはご愛嬌の範囲内です。それよりも《言葉遣い》にほんの少しの違和感が。京都の奥座敷の老舗旅館が舞台なら京言葉を使って欲しかった気はします。接客の際は標準語でもいいかもしれんけど裏でスタッフ同士で喋る場面とかだけでも方言を出して良かったかな、と。もっとリアルでコミカルになってたと思いますね。それかいっその事《スタッフ→標準語/宿泊客→京言葉・関西弁》にして白黒を反転させて遊ぶか。背景が新緑だったり雪景色だったりというのは本来なら〈チョンボ〉なんですよね。繋がらないもん。でも「想定外の大寒波での大雪で撮影中止になるはずがスケジュールの都合上で強行撮影した」みたいな事を上田さんがラジオで話してるのを聴いてたので逆に笑えるポイントになってましたしそんなに気にならなかったですよ。まぁよりによって外ロケの逃避行のシークエンスが雪の降ってるタイミングなのは笑っちゃいました。逃走ルートなくなるループで雪消えてるし。ただ、もう一度最後のループ前にミコトとタクが和解して話し合うターン(髪を切るターンですね)も雪が残ってた。これは敢えてワザとじゃないかしら。雪景色の逃避行に合わせたと思うんです。ミコトとタクがメインのループはほぼ雪なんですよ。開き直って逆に大雪を背景の一部にして利用したかのような。敢えて印象深くする為に雪に合わせたかのようなキレイなシチュエーションでしたね。

タイムリープを使ったワンシチュエーションSFコメディ("SF"要素は薄味ですが)で限りなく低予算なんじゃないですかね(野暮な事言ってごめんなさい)。それでもこんだけ高密度でおもしろい作品が作れるんですよ。予算をバッカバカ注ぎ込んでスケールだけデカくして作る漫画原作の作品なんかよりずっとずっとおもしろいしよくできてますよ。

今作を観ていきなり『うん、これからはどんどん舞台も観に行こう!』とまではならないけど『舞台もおもしろいエンタメなんやな』という意識の上書きはできました。まぁほんのちょっと行きたくはなってます(なりかけてます)けど。単純なんで。てか、《貴船ふじや》に行きたくなりました。久保ちゃんが出てるから乃木坂繋がりで観た作品ですけど、思ってたよりもずっとおもしろかったです(もうちょっと久保ちゃん観たかったけど"友情出演"枠なら仕方ないよね)。

 


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勝102

分20

負7